Pages

2013/02/01

自分の持てるものでつくる店—カフェアッシュ





 「今日は○○にしようかな」「あらごめん!今日は○○仕込んでないんだー」
「トースト少し焦がしちゃった。焼き直すからもうちょっと待って!」「焦げててもいいから、それちょうだい」

「カフェアッシュ」では、たびたびこんな会話が聞こえてきます。初めて聞いた時には驚きましたが、お客さんたちは特に腹を立てるというわけでもなく、むしろ、店主の馬道さんがてんてこ舞いの時には、思わず台所に入って手伝ってしまうような雰囲気がこの店にはあります。


 馬道さんがアッシュを始めたのは、5年前。26年前からポップライターという、手書き文字やイラストで、メニューや看板などをつくる仕事を続けてきたのですが、パソコンが普及し、簡単なものなら素人でもつくれるようになってきたことで、ポップの仕事一本では生計を立てていくことが難しくなってきました。大好きなポップライターの仕事も続けながら、できる仕事はないか、と考えた時に、仕事場であるこの一軒家で、週に数日だけカフェをしようと思いついたのです。

 珈琲と料理2品くらいメニューがあれば、なんとかなるんじゃないか。昔からよくつくっていて、友人たちからも「お店で食べるのより美味しい」と言われていた自分の得意料理、「カレー」と「かぼちゃのタルト」を最初のメニューにすることにしました。


 



 珈琲を入れるには、フレンチプレスを使うことに決めました。カフェをはじめると聞いた友人が、「フレンチプレスでいれる珈琲は、簡単で美味しいよ」と言って、器具をプレゼントしてくれたからです。フレンチプレスは美味しい豆を使わないといけないと聞いて、友人がくれた焙煎店の豆を使うことに。アイスコーヒーの豆を選ぶために、お店に相談のメールを送ると、一度も会ったことのない店主から電話がきて、全く知識のなかった馬道さんに、お店としてお客さんに珈琲を出していく道具や方法を懇切丁寧に教えてくれて、準備を整えることができたといいます。

 カフェの営業日は、日曜から水曜の4日間と決めました。「だって、週末は自分も遊びたいじゃない?」こうして、週の前半はカフェ店主、後半はポップライターという二足のわらじ生活が始まったのです。

 料理2品で、ささやかにはじまったアッシュでしたが、時にはカレー用のご飯が余ってしまうこともあります。余ったものは、冷凍していたのですが、やはりカレーには炊きたてご飯がいい。じゃあ、一度冷凍したご飯を美味しく食べてもらうには、と「チキンドリア」が生まれました。余った材料を無駄にせず活用するにはどうしたらいいか、また、素人でも美味しくつくるにはどうしたらいいか、という課題を知恵をしぼって解決する中で、新しいメニューが発明されていきました。

 「このくらい気軽にはじめるお店が、もっと増えてもいいのに」と馬道さんは言います。馬道さんは、自分が持っているものをなんとか活用し、一般的なカフェとは一風変わっていても気にせず、お店を続けてきました。自分の仕事場を使い、自分の得意料理をメニューにし、カップを暖めるというひと手間だけは惜しまずに入れる珈琲。カフェをつくる、と言った時に思い浮かべるであろう、資金をためて、珈琲の修行をして、料理の勉強をして、店舗を借りて、ようやくオープン、というやり方とは180度違うけれども、商いとしては成立しているのです。

 プロフェッショナルな飲食店を求める人には、ものたりないお店かも知れないけれど、アッシュはいつも町の人たちでにぎわっています。それは飲食とともに時間を提供するというカフェの基本機能以外にこの店が別の機能を持っているからです。店内では、食品や野菜、手づくりのアクセサリーなどが販売されており、また、町の中で行われるさまざまな催しや、町の人が取り上げられた新聞記事なども、たくさん貼り出されています。地元のものもあるし、そうではないものもあります。でも、共通点は、すべて馬道さんとつながりのある人たちのものです。また、馬道さんに「○○に詳しい人いないかな?」などと相談すると紹介してくれたりもします。商品なども含めて、町の中の情報や人をつなぐという機能がここにはあるのです。これも馬道さんの「持てるもの」が生きている、ということだと思うのです。





 馬道さんが、高校生だった時、まちには10軒以上の喫茶店があったといいます。自分たちが良く行っていたお店もあれば、大人になったら行こうと思っていた店もあり、気分や目的にあわせて、お店を選ぶことできました。しかし、今の浦河に、喫茶店は1軒しかありません。馬道さんが、カフェを始めようと思ったきっかけは、あくまで自分の生計を支えるためでしたが、町から喫茶店が消えていったことも、お店をはじめる後押しになったそうです。

 アッシュを始めてから数年たった、ある日の夕方。気付くとお客さんが全員、高校生だったことがありました。アルバイトをしていた生徒からのクチコミで、いつのまにか、高校生たちにも、放課後を友人たちと過ごす場所として、使われるようになっていたというのです。

 町から喫茶店が消えていったということは、この町で、喫茶店だけの機能を提供する商いをしていくのは、難しいということなのかも知れません。一方で、馬道さんが、自分の持てるものを活用して、人々がつながりあう「アッシュ」という場をつくり、商いとして続けているのも事実です。このことは、また別の誰かまた、その人の持てるものを活用して、商いを立ち上げていける可能性があるということにも思えるのです。


カフェアッシュ
北海道浦河郡浦河町東町かしわ3-3-5
0146-22-3595

日・月・火11:00-18:00
11:00-21:00
木・金・土休

http://popwriter.exblog.jp/


文・写真 宮浦宜子(うらかわ「食」で地域つなぐ協議会 研修生)

0 コメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。

 

Copyright © うらかわ「食」の手帖(β版) Design by Free CSS Templates | Blogger Theme by BTDesigner | Powered by Blogger